※本記事はハウジングKomachi Vol.32(2021/6/25発行)の巻頭特集『子育て世代が立てた家』掲載記事です。
キッチンを背にダイニングチェアに腰かけると、この家のユニークさがよく分かる。
2つの階段が両サイドに伸びており、その間に見えるのは小上がりとダウンフロアリビング。
吹き抜けで繋がる2階には、書斎・セカンドリビング・寝室が見え隠れする。
2階に上がる階段は10段と一般的な踏板の数より少ないが、その理由は、2階の床が低めにつくられているから。
それでは、1階の天井が低くなってしまうのではないか? と心配になってしまうが、その問題は緻密な計算でクリアされている。
L字型の2階の大部分は外側へと迫り出しているため、2階の大部分はそもそも1階の上には重なっておらず、重なっている一部の空間は床レベルを下げることで十分な天井高が確保されている。
そんな細やかな設計でつくられたT邸は、いくつもの床レベルが複雑に入り組んでおり、まるでアスレチック遊具のようだ。
「昔から家を建てることが夢でした」と話すご主人は、数年前に仕事を通して出会った建築家に家づくりを依頼。
新築を機に、ご主人の両親との同居を決めた。3世代が一つ屋根の下で暮らすにあたり、適切な距離感や居場所を設けることが命題となったが、安易に分断された個室をつくるのではなく、緩やかに家族が繋がるように家全体の計画がなされていった。
床レベルの異なる小さなスケールの空間が散りばめられているが、それぞれが家族にとって使いやすい居場所になっている。
「書道をしている父は小上がりを使い、絵を描くのが好きな母はダイニングを使います。僕は仕事を持ち帰ることもあるので、その時は2階の書斎を使いますし、遅い時間に帰って簡単な食事をする時にはセカンドリビングが重宝しています」とご主人。
内部空間は吹き抜けを介してほとんどの空間が繋がっているため、個室や水回り以外の場所では、互いの声は聞こえるが程よい距離を保つことができる。
段差の多い家というと一般的には敬遠されるものだが、T邸の中を歩き回っていると、坂の多い街の路地を散策しているような感覚になるのも面白い。
リビングやキッチンは路地沿いに立つ小さなお店のようでもあり、場所ごとに見える景色が変わるため、違った気分を味わえる。
もちろん、2つの階段を使ってぐるぐると回遊できる空間は、子どもにとってはこれ以上ない遊び場になる。
「娘はまだ1歳と小さいですが、姪と甥が来ると家中を駆け回ったりかくれんぼをしたりして遊んでいます。そんな楽しそうな姿を見られるのがうれしいですし、娘がもう少し大きくなって友達と一緒に思い切り遊ぶ姿を見られるのも楽しみにしています」(ご主人)。
【DATA】
新潟市 T邸
延床面積 129.81m²(39.19坪)
1F 74.74m²(22.56坪) 2F 55.07m²(16.63坪)
家族構成/夫婦+子ども1人+両親
竣工/2020年12月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2021年4月)
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