※本記事はハウジングKomachi Vol.32(2021/6/25発行)の巻頭特集『子育て世代が立てた家』掲載記事です。
町屋の構成を採り入れ、現代的にデザイン
上越市・高田地区に立つH邸。
家のすぐ近くには、間口が狭く奥へと長い町屋が連なる、伝統的な高田の風景が広がっている。
H邸もまた南北に細長い土地で、その敷地条件と地域性を読み解き、町屋の構成をモチーフに細長い形状を採り入れた。
北側道路に面した建物で、正面はインナーガレージ。そのサイドが通り土間に見立てたアプローチだ。
屋根が掛けられたアプローチは、大きな開口部を持つリビングに面しており、外部空間でありながらも、リビングの延長のような内と外の中間領域になっている。
「コロナ禍で家で過ごすことが増えましたが、ここで上の子が縄跳びなどをしてよく遊んでいます。雨の日でも外に出られますし、家の中からその様子を見られるのもいいですね」と奥様。
リビングのコーナー部分は床から天井までがガラス窓になっているが、通りからは見えにくい設計のため、日中はブラインドを開け放して過ごすことができる。
アプローチを通り抜けた先は芝生の庭で、その一角は家庭菜園。夏には枝豆やキュウリ、トマトなどの夏野菜を自給自足する。
「庭に耐火レンガを積んでピザ窯を作りましたが、友人家族を呼んで、ここでピザパーティーをすることもありますよ」(ご主人)。
町屋の奥庭のように、通りから程よい距離があるため、人目を気にせずにリラックスして過ごすことができる。
南北に細長い住まいは、南端にある脱衣室の天井高が最も低く、北側に行くにつれて上がっていく。
ちょうど中央には天井高3.8mのLDKが配されており、そこが最も開放的な空間だ。
そこから見える2階はガレージの上にあるため、一般的な床レベルよりも低く、LDKとの距離が近い。
階段を上がったところは大きなデスクが造作された多目的コーナーで、現在はご主人のリモートワークのスペースとして活用。
「オンラインで研修を受けたり、プレゼンを行ったりもしますが、不便さを感じることなく仕事ができています」とご主人。その奥には子ども部屋と寝室、そして個室タイプの書斎が設けられている。
南海陸風(かいりくふう)と呼ばれるこの地域に吹く風を採り入れるデザインもH邸の特徴。
日中は海(北)から山(南)へと風が吹き、夜は逆方向の流れとなるが、各部屋を完全に仕切らず天井付近に空間をつくることで、家中を風が通り抜けるように考えられている。
「アパートに住んでいた時は風を感じることがありませんでしたが、この家では本当に気持ちいい風が抜けていくんです」(奥様)。
分断されがちな1階と2階に連続性を持たせ、風という自然現象をうまく活用した住まい。
外との距離感も近い暮らしの中で、子どもたちは伸び伸びと成長をしている。

【DATA】
上越市 H邸
延床面積 176.86m²(53.60坪)
1F 127.18m²(38.50坪) 2F 49.68m²(15.10坪)
家族構成/夫婦+子ども2人+母
竣工/2019年3月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2021年4月)
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