※本記事はハウジングこまちVol.30(2020/6/25発行)の巻頭特集『自然と、つながる』掲載記事です。
新潟市西区の高台に立つ小さな建物。アプローチには五葉松が植えられ、入口の軒には暖簾が掛かる。そば屋を思わせる佇まいだが、ここはFさんご家族が暮らす住宅だ。
光を抑えた土間を経て室内に入ると、吹き抜けに面した大きな窓越しに景色が広がった。
傾斜地に立つ家々や、遠方の山並みを見渡すことができる。周囲に高い建物がないため、空が広く見えるのもこの土地の魅力だ。
ベージュカラーで仕上げられた居室の外には、広いウッドデッキが連続しているが、斜面に突き出した浮遊感のあるデッキはルーフテラスのようでもある。
そこには長さ2.5mのテーブルが設えられており、ビアガーデンのようなゆったりとした空気が流れていた。
そんな開放感たっぷりのF邸だが、延床面積はわずか19坪だという。「前は2Kの小さなアパートで暮らしていて、友人たちと狭い部屋で飲みながらガヤガヤ過ごす時間が好きでした」と奥様。「家を建てようと考えていた時に、趣味のトレイルランニング仲間が新築した小さな家に遊びに行ったら、その家は延床面積がわずか15坪。『これだ!』と思ったんです」と続けた。
夫婦共に求める暮らしのイメージが一致しており、迷うことなく、その友人宅を設計した建築士に依頼を決めた。
F邸は、3間×3間の総2階に8畳の土間が付いた構成。
建築家の故・増沢洵氏が1950年代に提唱した「最小限住居」をオマージュし、そこに高い断熱性能や合理的な収納を加えるなど、独自の価値が加えられている。
9坪の平面の3分の1に浴室・洗面脱衣室・トイレが集約されており、残りが居室。その中心にあるのはL字型の大きなウォルナット天板の造作テーブルだ。
その片側は小上がり、逆サイドは檜の無垢フローリングに分けられ、ぐるりと回遊できる。キッチンは端に設けられており、そこからテーブルとウッドデッキ、その奥に広がる風景を一直線に眺められる。
大きなテーブルは友人が集まる時に最も活躍する。「大人が9人位集まったこともあります。小さな空間なので、キッチンで料理をしながら一緒にお酒を飲んで過ごせるのがいいですね」と奥様。
テーブルはキッチン側まで続いているので、料理の作業台にもなる。ゲストとホストが共にワイワイ楽しめる賑やかな小空間。それは、小さなバルのようでもある。
ところで、F邸にはテレビが無い。「アパート暮らしの時に、ふと、ほとんど見ていないことに気付き手放しました」とご主人。テレビが無いからこそ、自ずと目線は外の風景へと向かう。
「冬の晴れた朝の景色が最高ですね。朝起きたらブラインドを開け、夕方になったら閉める。それが暮らしのリズムづくりにもなっています」(ご主人)。
キャンプで感じる、自然と一体になる心地よさ。F邸ではそれが日常のものとなっている。
【DATA】
新潟市 F邸
家族構成/夫婦+子ども1人
延床面積 65.42m²(19.75坪)
1F 43.06m²(13.00坪)
2F 22.36m²(6.75坪)
竣工/2018年8月
構造/木造軸組工法
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