※本記事はハウジングこまちVol.30(2020/6/25発行)の巻頭特集『自然と、つながる』掲載記事です。
広々としたウッドデッキの目の前に広がるのは、季節を感じさせる落葉樹が植えられた庭。
水面を模した砂利に囲まれるように、いくつもの木々が配されており、島が浮かんでいるようにも見える。ぐるぐると歩き回りながら石の海に浮かぶ木の島々を眺められる設計だ。
そんな庭の樹木に隠れるように、N邸は主張することなく立っている。
設計した建築士はこの住まいを「まちなか山荘住宅」と呼ぶ。杉板で覆われているが、木目を主張しないグレー塗装で仕上げられているのが奥ゆかしい。
Nさんご夫婦は同じ敷地内に立っていた築30年程の家に住んでいたが、子育てを終え、改めて二人だけで暮らすための終の棲家を建てることに決めたという。
「自然素材を使った家にしたいと思い住宅会社を巡っていた時に、インターネットで見つけた設計事務所が気になり、築3年になる自宅兼事務所の見学会に訪れたんです」と奥様。
杉の床や木製の窓、木の風呂など、自然素材がふんだんに使われた居心地のいい空間に魅了され、依頼することにした。
L字型の敷地に立つ住まいは、東西方向に長い平面を持つ。総2階の建物に、ウッドデッキ付きの平屋がくっついた構成だ。
ユニークなのは、家の東端にある3畳の小屋。
母屋と同じ屋根の下にあるが、一度外に出ないとたどり着けない離れのような空間で、ご主人が書斎として使っている。
部屋の中には、本がぎっしり詰まった書棚と机が置かれているだけだが、小ぢんまりとしたスペースが妙に落ち着ける。
机に向かいながらも時折左に顔を向ければ、鮮やかな庭の緑が目を楽しませてくれる。
「朝早く起きて、ここで本を読んで過ごしています。小さな空間でも、自分だけの居場所があるのがいいですね」とご主人。
小屋と母屋の間に広がるウッドデッキは大きな縁側のような場所で、ここに椅子を出して腰掛ければ、庭全体を正面から眺めることができる。
一方、2階建ての母屋は、敷地の端に隠れるように慎ましく立っている。
庭を望むコーナー部分は吹き抜けのあるダイニング。そこが暮らしの中心だ。
その周りには、和室やキッチン、水回りや階段が配されている。
ダイニングの北東角にはコーナー窓が切られており、引き込み式の木製窓を全開にすれば、デッキや庭が繋がる。
通りと家の間に庭を設けたことで、外からの目を気にすることなく窓を開け放して過ごせるが、それが山荘のような心地よさの秘密だ。
庭木への水やりがご主人の日課だという。「この辺りは砂地なので水を吸いやすいんですよ。この広さでも1時間はかかります」とご主人は笑う。
「枯葉の掃除や草取りも手間がかかりますが、お客さんが来て庭を喜んでくれるのがうれしいですね」と奥様。
豊かな庭を育て、木々と向き合う日常。それは、子育てを終えたご夫婦の新しい人生の楽しみになっている。
【DATA】
新潟市 N邸
家族構成/夫婦
延床面積 108.06m²(32.62坪)
1F 65.83m²(19.87坪)
2F 42.23m²(12.75坪)
竣工/2015年8月
構造/木造軸組工法
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