※本記事はハウジングこまちVol.30(2020/6/25発行)の巻頭特集『自然と、つながる』掲載記事です。
5月を迎え、田起こしをするトラクターの音がF邸にも聞こえてくる。
敷地の鼻先には二筋の小川が流れ、棚田のように段差のある小ぶりの田が続き、その先には低い山が連なっている。
「もう少しすると一面に苗の緑が広がってきれいなんだけど」。ご主人の言葉に、薫風にそよぐ青々とした苗の姿を想像してみる。
「夏になるとホタルも見られます。星空もきれいですよ」と、言葉を続けるご主人が頬をゆるめる。
十日町市、旧中里村のとある集落。Fさんご家族がこの地に新築を決めたのは、この風景を愛おしんだからだ。
「小さい頃から親しんできたこの風景や自然を、いつも感じながら暮らしたいと思ったので」と、ご主人の実家の隣に新しい住まいを設けた。
設計は多くの建築士に影響を与える著名な建築家。
工務店を経営するご主人が仕事をお願いした経緯から、自宅の設計も依頼することになったという。
「建物のイメージは、妻も私も気に入っていた建築家・吉村順三が建てた『軽井沢の山荘』のように、とお伝えしました」。
片流れの屋根が二重に連なった2階建て。外壁全面に魚沼杉を張った、まさに山荘のような佇まいのF邸は、昔からそこにあったかのように里山の風景に溶け込んでいる。
玄関から廊下を通ってLDKへ進むと、窓の外にはご夫婦が望んでいた風景が広がっていた。
通常であれば一面に引き違いの窓を切りたくなるところ、F邸では半分程度の小さめの窓が採用されている。しかしその窓は、そこからでしか見えない、異なる風景を映し出している。
リビング、薪ストーブのある土間、また2階の窓からも、広がる風景を一枚の絵画のように切り取り、スケール感とは異なる美しさを引き出していた。
見れば見るほど、それはこじんまりとして温もりのある里山の風景を愛でるのに最適な配置なのだと思えてならない。
引き込み式の窓を全開放するとさらに視界が開け、風が抜け、自然との繋がりが一層強くなる。
外にはリビングと同じくらいの広さを持ったウッドデッキ。
「バーベキューをしたり、ソファを出してリビング代わりに使うこともあります。冬の夜に子どもたちと雪だるまを作ったこともありました」。
凍てつく夜のデッキで雪遊び。季節を問わず自然を楽しみたいと願うご主人らしい話だが、「室内が暖かいから寒さも楽しめるんです」と、もうひとつの理由を話してくれた。
F邸の断熱性能は、HEAT20・G2グレードに相当。その結果、冬は薪ストーブ1台で家全体を暖め、夏はロフトのエアコン1台で冷房をまかなっている。さらに太陽光パネル一体型の屋根材「エコテクノルーフ」を設置し、ZEH仕様とした。
冬には積雪が2mを越えるこの地で、四季を通して自然を楽しむ暮らしは、高い断熱性能を確保した快適性にも支えられていた。
【DATA】
十日町市 F邸
家族構成/夫婦+子ども3人
延床面積 136.34m²(41.25坪)
1F 76.84m²(23.25坪)
2F 59.49m²(18.00坪)※ロフト含む
竣工/2018年8月
構造/木造軸組工法
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