※本記事はハウジングこまちVol.34(2022/6/25発行)の巻頭特集『小さな家がいい。』掲載記事です。
Kさんが家を建てたのは5年前。
小学生の息子さんと2人で暮らすのに十分な広さの家を希望した。「息子もやがて成長して、いずれは家を出るかもしれません。そうなった時に持て余さない大きさにしたいと思ったんです」。
工務店の建築士との打ち合わせでどんな家にしたいかを聞かれると、Kさんは丸窓などの具体的な要素を挙げながら「かわいい家にしたい」と答えたという。しかし設計をした建築士は、「かわいい」というイメージを窓の形などのパーツで表現するのではなく、建築として具現化することを目指した。
小さな家を希望していたことから、建物のボリュームは自ずとコンパクトでかわいいものになる。さらに、フォルムを工夫することで「かわいさ」をつくり出せないか? そう考えて辿り着いたのが、中央部分の屋根が急勾配になった左右対称のファサードだった。
内部は床面積18坪の1階で生活が完結できるプランで、ロフトのような2階は息子さんが使うフリースペース。建物の大きさを抑えながら2階を有効活用するために屋根の勾配を変えている。この独特の外観は、アントニン・レーモンド設計の札幌聖ミカエル教会のフォルムを参考にしたという。
また、K邸の正面には下屋が架けられており、左半分はポーチの、右半分はウッドデッキの屋根としてそれぞれの役割を担う。
この実用的な下屋も正確に建物の中央に配されており、均整のとれたファサードを構成する一要素になっている。
リラックスムードあふれる、勾配天井のリビングで憩う
1階は3間×3間の正方形が2つ並んだシンプルな平面で、左半分の正方形には玄関・寝室・収納・水回りといった小さなボリュームの空間が集約されている。

一方、右半分は間仕切りがない18畳のLDKで、勾配天井が2階まで続く開放的な空間が広がっている。
その中の一角にあるキッチンは、室内を分断しないオープンタイプで、草木が茂る庭を眺めながら気持ちよく料理ができる。
ダイニングテーブルやソファはなく、大きな家具は座卓だけ。そんなすっきりとした暮らし方も相まって、リビングは窮屈さとは無縁だ。
「暖かい家に住みたいという希望はありましたが、あまり機能性を重視した家にはしたくなかったんです。例えば家の形で言えば、無駄のない総2階は嫌でした」とKさん。
便利な空間として人気が高いシューズクロークやランドリールームもこの家にはない。それよりも、温かみある木に触れられることなど、Kさんが求めたのは感覚的な価値だった。
とりわけ2階は、目的を限定せず特別な機能を持たない余白のような空間。装飾も造作家具もない。一方で、天井のツガは1階で見るよりも間近に迫り、木の質感を他のどの部屋よりも感じられて心地いい。
今は息子さんの部屋として使っているが、将来はどんな使い方がされるのだろうか? 全てのピースがはまらなければ完成しないパズルのような神経質さはなく、曖昧さを内包しているK邸の内部空間。
その大らかさも、この家のかわいらしさである。
【DATA】
村上市 K邸
延床面積 84.28m²(25.50坪)
1F 59.49m²(18.00坪)
2F 24.79m²(7.50坪)
竣工/2017年6月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2022年5月)
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