※本記事はハウジングこまちVol.34(2022/6/25発行)の巻頭特集『小さな家がいい。』掲載記事です。
五頭連峰に程近い阿賀野市旧笹神村を訪れた。
大きな空を背に佇むS邸は、間口4.5間×奥行3.5間の総2階。
無駄を削ぎ落としたスマートなフォルムとライトグリーンの爽やかな外壁が目を引く。周辺にはのどかな田園風景が広がっており、時折キジやタヌキなどの野生動物が現れるという。
小中学生の3人の子どもたちを育てるSさんご夫婦は、これまで同じ敷地内に立つ奥様の実家に同居していた。子どもたちが成長し、実家が手狭になってきたことから、敷地内の空いている土地に家を建てることにしたという。
新居を建てるにあたり奥様が望んだのは、使い勝手のいいコンパクトさだった。遮るものが少なく眺望のいい敷地条件を生かして、景色を楽しめる家にしたいとも考えていた。
そんな要望を建築士に伝え、雄大な里の風景に向かって立つ2階リビングの住まいを実現した。
家の中央を貫く吹き抜けは、光と風の通り道
玄関ドアを開けると、最初に目に飛び込んでくるのはモルタル仕上げの通り土間。
正面には掃き出し窓があり、そのまま建物裏手へと通り抜けられる。そこにはハーブ畑をつくる予定で、畑と家を繋ぐ動線として考えられたものだ。
通り土間の上は2階の高天井まで伸びる大きな吹き抜け。ここに架けられた木製スケルトン階段が上下階を繋ぎ、吹き抜けが光や風を通す役割を果たしている。この開放的な通り土間は、「玄関たるもの、かくあるべし」という固定概念を心地よく崩し、ゲストを明るく軽やかに迎え入れてくれる。
階段を上がった2階がS邸のメインの空間。
唯一トイレだけが個室化されているが、それ以外は大きなワンルームで、勾配天井が面積以上の開放感をつくり出している。
空間の中ほどに設けられた階段の西側14畳分がLDKで、その反対の東側には寝室・トイレ・収納が配されている。
居室と寝室が緩やかに繋がるワンフロア
ユニークなのが間仕切り壁のない寝室。夜寝る時には薄いカーテンを引いて柔らかく仕切るという。
広々とした2階には、ソファやテーブルなどの家具はなく、それが空間をより広く感じさせる。
「寝室にベッドを置かなければ、昼間は子どもたちの遊び場になります。ソファを置かずに床の上でひなたぼっこするのもいいですしね」とご主人。
奥様も「ものはあまり置かないようにしています。すっきりしていて掃除もしやすいんですよ」と、シンプルな暮らしのメリットを話す。
仕切りのない2階は北・西・南の三方から光が入り、それが白い壁や天井に柔らかく反射する。どこに居ても明るく、外に目を向ければ五頭連峰やどこまでも続く田園が眺められる。
「田んぼに水が張られる5月は水面に景色が映ってきれいですよ。田んぼを通ってくる風も涼しくて気持ちいいですね」(ご主人)。
個室が集中する1階と、仕切りのない2階。このメリハリが小さな家に様々な空間体験をつくり出している。
窓を開けると春の爽やかな風が流れ込んできた。
五感で季節を感じられる住まいは、物理的な広さを超えた開放感にあふれている。
【DATA】
阿賀野市 S邸
延床面積 96.91m²(29.25坪)
1F 50.52m²(15.25坪)
2F 46.39m²(14.00坪)
家族構成/夫婦+子ども3人
竣工/2021年1月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2022年4月)
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