※本記事はハウジングこまちVol.33(2021/12/25発行)の巻頭特集『眺望のいい家』掲載記事です。
まるで大海原のように広がる田園風景。
そこに向かって今にも航海を始めようとする船のようにT邸は佇んでいる。
集落がある北東側はシンプルな三角屋根のフォルム。
一方、田園が広がる南西側に回り込むと、船首のように前へと突き出した外観が姿を見せる。
五角形の平面を持つ総2階。
玄関ドアを開けるとすぐに直線階段が現れ、自ずと視線は光あふれる2階へと向かう。
階段を一段一段登っていくと、2階の船首側の窓の景色は、空から地へと移り変わっていく。
そして、そのまま先端部へ進むと180度を優に超えるパノラマが広がる。
「これまでは実家で暮らしていましたが、子どもたちの成長と共に手狭に感じるようになりました。実家で所有していたこの土地を譲り受け、目の前の景色を楽しめる家を建てようと思ったんです」とご主人。
舳先(へさき)のような形の理由は2つある。
一つは景色をより広く採り込むこと。そしてもう一つは、日射をコントロールすることだ。
四角い平面にすると南西に開く家になり、夏の日射遮蔽が難しい。
そこで、舳先の形にすることで窓の方位をずらしている。
それにより、真南向きの窓は夏の太陽光を庇でシャットアウト。東西面は引き違い窓にしているため、軒先に簾を吊って、低い位置から入る日差しを遮ることができる。
大きな荷重が掛かる1階には、寝室や子ども室などの小さな部屋が配されており、たくさんの壁がしっかりと建物を支える。
その一方、壁量が少なくて済む2階には大きなリビングが広がる。
そのギャップが2階にダイナミックな開放感をもたらしているようだ。
頭上は船底天井と呼ばれる高天井。
フローリングと同様に長手方向に格子が組まれ、大空間に明確な方向性が与えられているのを感じることができる。
景色のいい窓辺にベンチが造作されているのには「居場所を散りばめたい」という設計者の意図がある。
鳥が木に止まるような自然な所作で、家族の誰もが何気なくここに腰を掛けるという。
「このベンチを机代わりにして娘が宿題をすることもありますよ」と奥様はほほ笑んだ。
「朝の景色は特に気持ちいいですね。窓を開ければ爽やかな風が通り抜けていきます」とご主人。
取材に訪れたこの日は、からりとした秋の風が吹いていた。
稲刈りが終わり少し寂しくなった田園と澄んだ青空がどこまでも広がる。
「家が建つ前に想像していたよりも大きな景色が眺められることに驚きました。家に居ることが楽しく、あまり旅行に行きたいと思わなくなりましたね」(ご主人)。
やがて大地は雪に覆われ、再び春が来て緑が芽吹き始める。
大きな自然の営みが、常に家族の目の前にある。
【DATA】
柏崎市 T邸
延床面積 125.86m²(38.13坪) 1F 62.93m²(19.06坪) 2F 62.93m²(19.06坪)
家族構成/夫婦+子ども3人
竣工/2021年5月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2021年秋)
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