モロッコの絨毯産業復興を目指す、三方舎の絨毯プロジェクト

モロッコの絨毯産業復興を目指す、三方舎の絨毯プロジェクト


プロジェクトを通して、よりよい社会を目指す三方舎

新潟市秋葉区にある「三方舎(さんぽうしゃ)」をご存知でしょうか?こちらは、同じ秋葉区にあるインテリアショップ「ボー・デコール」を兄弟で経営していた今井正人さんが、2011年に立ち上げた組織。

「売り手良し、買い手良し、世間良し」という近江商人の哲学「三方良し」の理念に共鳴した今井さんが、商いを通してより社会に貢献できるような取り組みをしたいとスタートしました。

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三方舎の代表、今井正人さん。

そもそも今井さんは、2000年代、まだ日本での知名度が低かったイランの草木染手織り絨毯「ギャッベ」の中でも特に上質なものを選定買付をし、日本に紹介する活動を本格化させました。それらのギャッベを「アートギャッベ」と名付け、国内で取り扱う提携先65社の代表選定人として、アートギャッベを全国展開するブランドへと育て上げた実績があります。

そんな今井さんが三方舎のプロジェクトとして始めたのが、絨毯の世界で後進国だったモロッコにおいて、品質管理やデザイン監修、販売までを行い、モロッコの絨毯産業の復興を目指すプロジェクトでした。

このプロジェクトで生産した絨毯を「GOSHIMA絨毯」と名付け、その製造にまつわるストーリーを丁寧に伝えながら販売をする三方舎さん。

プロジェクトを開始して4年が経過した今年、そのデザイン性や品質の高さ、そして社会的な意義が評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。

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グッドデザイン賞2015を受賞したGOSHIMA Royal collectionのSIPPOU。

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シンプルなパターンは家具とも合わせやすい。

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羊毛の染色には、レセダ(黄)や茜(赤)、タックブトゥ(茶)などの自然素材が使われている。

モロッコでスタートした絨毯復興プロジェクト

「手作りのものがもつ味わいが好き」と話す今井さん。「(大量生産される)工業製品の多くが経年と共に劣化していくのに対し、作り手の思いがこもった手作りのものは、年月と共に家族の思い出が刻まれて価値を増していきます。そして、そこにはスペックとは異なる価値観が含まれています」(今井さん)。

そんな今井さんが2011年にモロッコで絨毯復興のプロジェクトを始めた理由は、絨毯産業が衰退しているモロッコだからこそ、世界一上質なオリジナルのものを一から作り出せる可能性を感じたからと話します。ちなみに今井さんが提唱する「上質」とは、素材やデザインの良さだけでなく、作り手の思いなどのあらゆる背景を含んだ価値のことを意味しています。また、このプロジェクトでは、生産地の雇用の促進や、技術の継承も目標となりました。

プロジェクトは、モロッコの地方の村でオーストリア人の染色学研究者が始めていた絨毯復興プロジェクトに参画することを皮切りに、現地法人の立ち上げ、日本人デザイナーによるデザイン提供、そして王室御用達の絨毯工房との出会いなど、様々な出会いや協力を得ながら進めていったそうです。

その後、数々の苦労を乗り越えて、2014年に今井さんが満足のいくクオリティに仕上がった絨毯は「GOSHIMA Royal collection」と名付けられ、日本での販売がスタートしました。「はじめデザインを正確に再現することに苦労をしましたが、優秀な現地パートナーにも恵まれ、品質が劇的に向上しました。また、通常の品質管理だけではなく、誇りや意識を高く持つことの重要性も伝えながら進めていきました」と今井さん。

 

デザインとプロセスにもストーリーが

GOSHIMA Royal collectionの絨毯のデザインは、イスラム圏の建築物に使われる鮮やかな幾何学模様をモチーフにしています。その幾何学模様をシンプルにアレンジし、色数を減らすことで、日本の住空間に合う落ち着いたデザインに変換をしています。また、それらの幾何学模様にはそれぞれ固有の意味が込められており、例えば円が重なりながら連続する七宝柄には「繁栄や幸福が続くように」という意味があるそうです。

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赤い染料で染めた羊毛で織った七宝柄の絨毯。

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下は「TAWARA」、上は「medallion/DIA」。草木染の優しい色合いが特徴的。

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和の空間に合うような落ち着いた色とデザインも特徴の一つ。

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モロッコのモスクなどで見られるタイル装飾「ゼリージュ」をモチーフにしたデザイン(medallion/CIRCLE)。

そして、ユニークなのが絨毯のオーダーの流れです。三方舎ではオーダーを受けると、モロッコの工房の織り子さんに注文者の写真を送り、どんな目的で使いたいかを伝えるのだそうです。大きいものでは制作に半年もの期間が掛かるそうですが、その織り子さんの制作の途中経過の写真を注文者に送ったりもしているそうです。買い手と作り手がお互いを意識することで、絨毯は双方にとって思いの詰まった特別なものとなります。

 

標高2,000mを超えるモロッコのアンチアトラス山脈で育つ上質な羊の毛を使った絨毯は、100年以上も使える品質を持っているといいます。

「ただ、ものとしての耐久性だけでなく、家族が愛着を持って使っていけることが大切です。そこで、私たち売り手がそのものの背景を含めた価値をしっかりと伝えることが重要になってきます」と今井さん。

もはやもののスペックの良し悪しは生活を豊かにする決定的な要因ではなく、それ以上に、そのものがどんな背景を背負ってどんな意味をもたらしてくれるのかが重要になっているように思います。

三方舎さんが手掛けるモロッコの絨毯は、「作り手」の思いがあふれている特別なもの。

「人の価値観を変えるほどのものを提供したい」と話す今井さん。

三方舎さんの絨毯を通して、遠いモロッコの地で製造に携わった様々な作り手の思いを感じることができます。

そして、それは私たちとものの関わり方、さらには日々の暮らしまでも、より深く豊かなものに変えてくれるように思います。

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モロッコの高原で育つ羊の毛は、脂分を多く含むため、水分をはじき汚れにくい。

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ボー・デコール新館の2階に展示されているGOSHIMA絨毯。実際に絨毯に上がって質感を体験できる。

取材協力:三方舎 代表 今井正人さん

(写真・文 ハウジングこまち編集部 鈴木亮平)

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