地元産木材と伝統構法を用いた頑強な家づくり
現在の日本の木造住宅は、柱・梁を金具で接合し、そこに筋交いや面材を入れて構造体を組んでいくのが一般的です。また、使用する木材はプレカット工場で加工されたものを現場に運び、現場で加工済みの木材を組み上げていきます。そのようにして、住宅づくりは効率化され、現場の工期の短縮や、建築コストの削減、性能の均質化に役立っています。
そんな現代において、機械ではなく大工の手刻みで継手・仕口をつくり、金具補強に頼らず木材を組み上げていく「伝統構法」にこだわって家づくりをしている工務店・斑鳩建築(いかるがけんちく)さんを訪問しました。
新発田市旧紫雲寺町にある斑鳩建築さんは、棟梁の小川正樹さんの元、7名の大工職人が家づくりを行っています。
斑鳩建築さんが手掛ける住宅は、一般的な在来軸組工法の住宅よりも太い柱に、頑強な曲がり木の梁が幾重にも掛けられた古民家のような家。
建築家の村尾欣一さんと一緒に手掛ける住まいは、曲がり木の荒々しくも美しい構造体が現しにされ、そのまま意匠となります。
居間は吹き抜けで開放感にあふれ、心地良い光が注ぎ、爽やかな風が通り抜ける住まいができあがります。
日本の木造住宅は30年程度で建て替えられることが多いと言われていますが、斑鳩建築さんが手掛けるのは100年以上余裕で持つ耐久性の高い家。
木が育って再び良材となるには80年掛かるそうですが、「次の木が育つ前に家の寿命が終わってしまうようではいけない」という考えもあり、耐久性にこだわっているそうです。
また、家づくりに使う木材の9割以上を地元で調達してきた小川さんは、木や森の大切さを人一倍感じているからこそ、世代を超えて住み継がれる家を丁寧につくっています。
新月伐採と、マサカリ・チョウナによる材木加工
斑鳩建築さんがある新発田市旧紫雲寺町は、かつては松林が一面に広がっていたそうです。
海風で曲がった松を切り、その曲がった丸太を大工職人がマサカリやチョウナを使って加工して構造体を組む家づくりが伝統的に行われていたと言われています。
現在でも、斑鳩建築さんでは自分たちで山に入り、家づくりに使う木を一定量調達しています。
12月の新月の日に山で木を伐採し、そのまま木に枝をつけたまま葉を枯らし、翌年の8月9月に山からとり出す「新月伐採」というやり方を行っています。
この方法では、虫がつきにくく、色艶がよく、狂いにくい材料になるのだそう。
そして、調達した県産の木材をマサカリで削り、チョウナで表情を出していきます。
大きな材料では、1本の丸太を加工するのに丸2日間掛かることもあるのだとか。
斑鳩建築さんの敷地内の倉庫には、そんな木材が大量にストックされています。
健康住宅という付加価値をプラス
小川さんは、最近では、より健康に配慮した建材を使用した家づくりを進めているそう。
それは、建材に使われる接着剤から揮発する有害物質を徹底して排除した家づくりです。
接着剤が使われている集成材や合板の使用を避け、どうしても接着が必要な部分には天然素材由来の「 膠(にかわ)」を使用します。
また、ホルムアルデヒドなどの有害物質を吸収・分解する漆喰を使用することで、室内の空気を清浄化できるのだそうです。
それにより、接着剤特有の嫌な臭いがしない住まいができあがります。
斑鳩建築さんが取り組んでいるのは、グローバル経済とは一線を画した小さな経済圏での家づくり。地元の資源である木材を調達し、家を建て、地元の人が使っていく。
それは、世界的な経済の影響を受けることなく、地域内で経済が循環をする仕組みです。
小さな地域内でものが動くため、エネルギーロスが少なくて済むという合理性もあります。
そして、伝統構法という日本の建築文化を継承し、建築を通して日本固有の風景をつくり出すことにも貢献をしています。
現在、斑鳩建築さんの事務所の手前の土地には、小川さんの自邸兼モデルハウスを建設中。
今では珍しくなった伝統構法の住宅づくりが行われています。いつでも気軽に見学可能とのことですので、興味のある方は立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
取材協力:斑鳩建築(いかるがけんちく)
住所:新潟県新発田市真野原1839番地
電話番号:0254-41-4617
ホームページ:http://ikarugakenchiku.com/
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