※本記事はハウジングこまちVol.33(2021/12/25発行)掲載のインタビュー記事です。
住宅は実にさまざまな建材で構成されています。
中でも床材は空間に占める割合が大きく、家の印象を左右するもの。
多様な床材がありますが、樹種ごとに独特の素材感が楽しめる無垢材に憧れる人が少なくありません。
今回、新潟市を拠点に無垢フローリングの製造・販売を行うアンドウッド株式会社のショールームを訪ね、代表の遠藤大樹(えんどうひろき)さんにお話を伺いました。
and wood 遠藤大樹さん
アンドウッド株式会社 代表。1981年7月生まれ、大阪市出身。東京都内の無垢フローリング専門商社にて無垢フローリングの商品開発および調達に携わった後、2017年に独立。新潟市中央区沼垂東にて無垢フローリング専門店and wood(アンドウッド)を創業。2021年3月、新潟市中央区本馬越に移転。新潟市を拠点に全国の建築業者へ向けて無垢フローリングの供給を行う。
今、地球上から木がなくなりつつある?
まずは無垢フローリングの魅力について聞いてみましょう。
「無垢フローリングの魅力。それは見た目や質感の良さに尽きます。しかしそれ以外は、隙間ができたり手入れが面倒だったり、デメリットばかりだと思います。それでも、欠点を補って余りある魅力が無垢材にはあります。ですから、無垢材はまず見た目で好きなものを選んで頂くのがいいと思っています。ショールームを訪れる一般のお客様には、『好きな空間の写真を持ってきてください』と伝えることもあります。写真を見せて頂ければ、どんな無垢材が使われているか、グレードや産地まで何となく分かりますから」。
アンドウッドで扱っている無垢材には国産材もありますが、インドネシアチークをはじめ輸入材が多くを占めています。
しかしその輸入材、近年は手に入りにくい樹種が増えているそうです。
「世界的な木の買い付け合戦で日本が負けているという事情もありますが、枯渇しつつある木は確かにあります。例えば、唐木三大銘木と呼ばれる紫檀・黒檀・鉄刀木(タガヤサン)は10年前は手に入りましたが、最近は見なくなりました。近年、ワシントン条約によって制限されるようになったことも背景にあります。確実に樹種の選択肢は狭まってきていますね」。
歩留まりよく製材をすることが大事
暗い気持ちになってしまいそうですが、遠藤さんはそんな時代だからこそ、知恵を絞って前向きに考える必要があると話します。
「木がたくさん採れるようであれば何も考えなくてもいいですが、そうでない今は、1本の丸太からいかに歩留まりよく製材をしていくかが重要になります。例えば、幅が細く長さが短い材料を取ったり、ノコギリで2mm厚程度の薄さに挽いて合板に張る挽き板にしたり。木材の枯渇を防ぐには、このような木の使い方が有効だと思います。挽き板の場合はものによっては価格が無垢材の3分の1くらいになりますから、費用面でのメリットも大きいですね。建築は床以外にもお金をかけるべきところがたくさんありますから、挽き板を使って、浮いた材料費を他にかけるというのもいいと思います。チークの丸太から木取りをしていく時、うちでははじめに90mm幅のものを取り、その後にヘリンボーン用の60mm幅、その後にパーケット用の40mm幅を取るんです。その後さらに30mm幅を取ります。歩留まりを最優先しているため、例えば『今ヘリンボーン用の需要が高まっているから』という理由で、ヘリンボーン用の木を狙って取ることはありません。ちなみにその木取りのやり方は私にとって一つデメリットがあるんです。狙って木取りをしないため、在庫が偏ってしまうことが多いんですよ。人気のフローリングが不足する一方で、あまり需要がないフローリングの在庫が増えるということが起こりがちです。今も新しく作った幅細のチークフローリングの在庫が増えてきたので、これから積極的に売っていかなければなりません。90mm幅は事例があるので自然と売れていくんですが、事例が少ない床材はなかなか売れません。当社のパーケットフローリングも今では出るようになりましたが、最初は売るのに随分苦労しました。それでも、私は歩留まりを優先したいと思っています。それに、歩留まりのことを考えながら床材を作っているうちに、パーケットのようにユニークで面白い床材が生まれることがあります。制限の中でいいものを作ろうとする点は、精進料理に似ています」。
パテ処理されたフローリング材を愉しむ
需要よりも木を無駄なく活用することを優先するのが遠藤さん流。
また、死に節という穴をパテで埋めた床材を使う選択も一般的になっているそうです。
「パテ処理されたフローリングはキャラクターグレードと言いますが、20年前はありえなかったですね。今でこそ市民権を得ましたが、昔は粗悪品として見られていた床材です。かつてのオーク材は節も白太もないきれいなものばかりでしたから、今思えばすごい時代です。今はパテ埋めされた床材を好む人の方が多いように感じます」。
さらに遠藤さんは、床材を次世代へ引き継ぐために接着剤を使わない施工方法があると言います。
最後にそのお話を伺いましょう。
数十年後を見越して、張り方も考える必要がある
「建材は消耗品として捉えられることが多いと思いますが、床材を資産として捉えられないだろうか? と考えたんです。そのためには一度張ってもまた剥がせることが求められます。逆に、接着剤で張ってしまったらきれいに剥がせないので、その床材は建物の寿命と同じになります。ですが、例えば50年後に同じ無垢材が取れない時代になっていたら、剥がせるフローリングは付加価値を付けて再び流通できると思うんです。そのためには床材を固定する際に接着剤を使わずに、フィニッシュネイルと言う小さな釘だけで留める方法があります。話してきたことと矛盾しますが、私は歩留まりのことばかり考えるのは窮屈過ぎるとも思っています。やはり、いい木を好きなように製材していい部分だけ使うことで、いい建物ができるのも事実ですから。ただそれは将来建物を解体する時に剥がして再活用できるようにした方がいいと思います」。
無垢材選びは見た目が大事。
その一方で遠藤さんは、どう次世代に木を残していくかを考えています。
一枚のフローリングの向こうに見える世界に思いを馳せながら吟味してはいかがでしょうか?
取材協力/アンドウッド株式会社 遠藤大樹さん
アンドウッド株式会社
住所/新潟市中央区本馬越2-18-1
TEL/025-385-6763
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