※本記事はハウジングこまちVol.34(2022/6/25発行)の巻頭特集『小さな家がいい。』掲載記事です。
日本有数の豪雪地帯、十日町市松之山地区。毎年冬の積雪は3~4mにも上り、文字通り一面が雪に覆われる。
K邸はそんな松之山地区の集落内に立っており、周囲には里山と棚田が広がっている。
取材に訪れたのは4月上旬。新潟県内の平地では桜が咲き始めていたが、ここではまだ大量の残雪が大地を覆っていた。
「私は長岡市出身ですが、2009年にこの地域で学芸員の仕事に就き、借家として10年ほど住んだ家を購入し、建て替えを行いました」とご主人。
元の家は大きくて使いにくかったというKさんご夫婦は、十余年そこで暮らした後に建て替えを決断。
古家を解体し、昨秋、新居が完成した。
一つ屋根の下に散りばめられた、さまざまな居場所
延床面積は約28坪。2階建てだが、軒高が抑えられた建物はコンパクトで平屋のようにも見える。
この地域に見られるかまぼこ型倉庫から発想を得たというシンプルな佇まいで、外壁は耐候性の高いガルバリウム鋼板で覆われている。
屋根は自然に雪が落ちる落雪式。家がかまくらのように雪に覆われても耐えられる頑強な躯体も備えている。
「以前は冬の間に7~8回は屋根に上がって雪下ろしをしていましたが、その手間がなくなりました」とご主人。
豪雪地帯という地域性から、入口には奥行き1.8mのポーチを設け出入りをしやすくすると共に、入口横の下屋にエアコンの室外機や給湯機を配して雪から守る工夫もなされている。
厳しい自然と生きる工夫が、シンプルな形状にすっきりと美しくまとめられているのが特徴だ。
オールシーズンを快適に過ごし、移り変わる季節を愉しむ
入り口は一般的な玄関ドアではなく、引き違いの掃き出し窓が用いられており、外の光を内部へと導いている。
そして、玄関で靴を脱ぐと、そこはもうK邸のリビングだ。
見上げれば小屋組を現した高天井の空間が伸び、左に目を向ければ建物を掘り込むようにつくられたテラスがある。
その向こうには雪に覆われた田畑と杉林。外から見た防御的な印象とは対照的に、内部は実に伸びやかだ。
家に守られながら美しい里山の風景を眺めていると、何とも言えない安ど感に包まれる。
「冬の間はテラスに雪囲いをしていましたが、2階から光が入るので明るかったですね」とご主人。
開放的なつくりは、雪に閉ざされる冬を心地よく過ごすのにも役立っている。
K邸を設計した建築士は、以前の住まいでKさん家族が1階だけで生活していたことから、このような平屋に近い家を考案。
柔軟に使えるように、図面上の各部屋には名前を付けなかったという。
例えば、奥の部屋は夜は寝室になるが、布団を片付ければ多目的に使える空間となる。
住宅に必要な床面積は、突き詰めれば意外と小さいものなのかもしれない。そんな気づきをもたらす家だ。
ご夫婦には自然を感じながら暮らせる家にしたいという願いがあった。
美しさと厳しさ両方の顔を持つ里山に抱かれたK邸は、環境にそっと溶け込む山小屋のようでもある。
静かな冬が終わり、雪溶けが進む。生活空間がテラスへ拡張すると、暮らしは一層自然と融合していく。
【Data】
十日町市 K邸
延床面積 95.01m²(28.79坪)
1F 72.71m²(22.03坪)
2F 22.30m²(6.76坪)
家族構成/夫婦+子ども2人
竣工/2021年11月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2022年4月)
【Plan】
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