※本記事はハウジングこまちVol.34(2022/6/25発行)掲載記事です。
断熱や耐震などの面で、日本の住宅はますますの性能向上が求められています。その一方で、家づくりを担う大工職人の減少や、現場の重労働が問題となっています。
そんな木造住宅業界における課題を解決するために生まれたという大型パネル工法。
業界はもちろん、私たち住まい手にどんなメリットをもたらすのかを専門家に伺いました。
★本対談は動画でもご覧いただけます。
(写真左より)
ハウジングこまち 編集長 大堀 絵美
新潟市出身。ハウジングこまち/リフォームこまち編集長兼カウンターアドバイザー。ハウジングこまち/リフォームこまちの編集職を経験し、これまで600棟以上の竣工物件の取材経験がある。
株式会社 サトウ工務店 代表 佐藤 高志
三条市出身。建築事務所勤務を経て、家業であるサトウ工務店に入社し、2010年同社代表に。大型パネルユーザー会「みんなの会」会長。著書に『デザイナーズ工務店の木造住宅納まり図鑑』(エクスナレッジ)がある。
渡辺パイプ 株式会社 長岡住設サービスセンター 三条燕住設センター 所長 阿久津 崇之
群馬県出身。2002年渡辺パイプ(株)に入社。水工営業所、設備営業所を経験した後2018年に新潟勤務となり県内全住設営業所に携わる。大型パネルの上棟を初めて見た時に感銘を受け県内での大型パネル推進に努める。最近は、料理からも段取り力を学んでいる。
渡辺パイプ 株式会社 木造大型パネルチーム 近田 真帆
埼玉県出身。2019年大型パネル販売事業開始と共に同事業チームへ異動。新潟県では、サトウ工務店様を担当し、県内では30棟以上大型パネル現場に関与。大型パネル特設サイトの運営や社内外の動画などにも携わっている。
品質向上と現場負担軽減を、大型パネル工法で実現
佐藤さん 今住宅業界が抱えている課題として、大工人口の減少が挙げられます。1995年に70万人いた大工さんが、2015年には35万人にまで減ったというデータがあり、20年の間に半減しているんですね。その後もさらに減少し、2030年には21万人になると予想されています。
その一方で、4号特例の縮小や、新築住宅の省エネ義務化、ユーチューブ等で専門知識を身に付けプロ化した施主さんの登場といった変化もあり、我々がつくる建物の性能はどんどんレベルアップが求められています。
阿久津さん 大工人口が減っている理由に、大工という職業の人気が落ちているというのがあるんですね。「重たいものを運んだり大変そうな仕事だな」というイメージが強く若い人がなりたがらないんですよ。
このままでは大工さん不足で家が建てられなくなるかもしれない…。大型パネルが生まれた背景には、そんな危機感があったと聞いています。
近田さん 通常だと大工さんが柱や梁を組み、サッシを取り付け、断熱材を入れる…という工程を現場で行いますが、大型パネル工法ではそれらを全て工場で行い、パネル化したものを現場に運んで組み立てます。
工場で加工することで釘打ちなどの施工精度を高められるのはもちろん、完成したパネルを一つ一つ写真に撮って記録を行うなど、検査体制が整備されているのも特長ですね。
佐藤さん 当社では、今は大型パネルを標準仕様にしていますが、使い始めた3年程前は、品質が確保されることや、性能を飛躍的に上げられるというメリットをお客様に説明していました。
建物の性能を上げようとするとサッシがどんどん重くなりますし、断熱材はどんどん厚くなります。大工さんはそれらの建材を現場で運んでいましたが、近年はその負担が昔と比べてかなり大きくなっています。
例えばトリプルガラスを使っているサッシであれば、1つ100㎏を超えるものも珍しくありません。足場でがんじがらめになっている場所で分厚い断熱材を運ぶのも大変です。
性能を上げようと思っても施工が追いつかない。そういう状態になっていたんですが、その全てを大型パネルで解決できました。それはそのままお客様にとってのメリットに繋がっています。
近田さん 雨仕舞までの日数を短縮できるのも大型パネルの特長ですね。通常は土台を組んでから雨仕舞が完了するまで15日程度掛かりますが、大型パネルを使えばわずか1~2日で完了します。雨雪が多い新潟では、特にメリットを感じやすいと思います。
佐藤さん 通常の工法では、たしかに上棟してから雨仕舞までの期間はけっこう長く、天候の影響を受けやすいです。例えば、耐力面材の釘のピッチや打ち込む深さなどは高い精度が求められますが、雨が降ると釘がめり込みやすくなるんです。大型パネルなら工場で品質を確保できますし、そもそも雨仕舞までが早く、材料を長時間濡らさずに済むのも安心感があります。
ゴミの削減にも貢献できる、環境負荷が少ない工法
阿久津さん 現場での工程を減らすことで工事音が発生する期間を短縮できますし、粉じんやほこりの発生も抑えられます。近隣へのご迷惑を最小限にできるため、住み始めてからのご近所付き合いがスムーズになりやすいのも大型パネルの特長ですね。
それから、住宅を1棟建てる際に現場では約3tのゴミが出るといわれていますが、大型パネルを使うことで約50㎏まで減らすことができます。工場での加工は資源の有効活用にも繋がっており、環境に優しい工法といえます。
近田さん 少し話が変わりますが、家の断熱性能を向上させることで電気代を抑えられますし、お子さんをはじめご家族の睡眠の質の改善や健康維持に繋がります。
あまり断熱性能について意識をされていない方にも、住まいの断熱性能を高めることのメリットに目を向けて頂きたいですし、それを高い品質で実現できる大型パネルを視野に入れて頂けたらうれしいですね。
佐藤さん 一方、大型パネルのデメリットとして、工場でサッシも取り付けられるため、施工途中で窓の位置を決めたり変えたりできないことが挙げられます。早い段階で設計を終わらせておく必要があるんです。
あとは輸送コストがデメリットになりますが、今は新潟県内に2カ所の大型パネル工場ができましたので、以前よりも輸送費に関しては安く利用できるようになっています。
阿久津さん 大型パネルには、階高や屋根形状の制限が多少ありますが、基本的に自由設計に対応している点も特長ですね。パネル工法というと規格住宅のイメージを持たれることが多いのですが、これまで現場で大工さんが行っていたことを工場で行う「受託加工業」なんですよ。
佐藤さん 大型パネルを導入して3年が経ちますが、大型パネル用に設計をした家はこれまで一つもないですね。使う建材も自由ですし、納まりも自由。斜め壁も大型パネルでつくることができました。
ところで今、大工人口の減少や建築資材価格の高騰など、住宅を取り巻く環境はネガティブな話題が多い時代に入っています。そこで、我々は抱えている問題を一つ一つ解決していくしかないと思っているんです。
もちろん大型パネルが全てを解決するわけではないですが、まずは大工さんの労働環境を改善する手段として採用し、業界を良くしていきたいです。住宅業界が明るく働きやすい環境になれば優秀な人材も集まりやすくなり、次の問題解決にも繋がっていくと思うからです。
「大型パネルは大工さんの仕事を奪っている」という声も聞きますが、そうではなく、重たいサッシや面材を運んだり、足場が邪魔で作業がしにくい現場で釘を打ったりという、本来の大工仕事ではない作業を減らすものなんです。
そもそも、ものづくりが好きで大工さんになった人が多いと思うんですよ。大型パネル工法で合理的に外注すると、大工さんは内部造作に集中できるようになります。それがより良い家をつくることに繋がっていくと思います。
【『大型パネルが選ばれる理由』実例記事】
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