※本記事はハウジングKomachi Vol.31(2020/12/25発行)の巻頭特集『住まいのニューノーマル』掲載記事です。
パブリックとプライベートを繋ぐ、細長いアプローチがある住まい
奥行き約40mの細長い土地。
ここには、かつてご主人の祖父が住んでいた家があった。
その土地を受け継ぎ、古家を解体してOさん一家が新しく家を建てたのは3年前のこと。
道路側には車3台を駐車できるカーポートを建物と一体につくり、その奥に建物へと続くアプローチをレイアウト。

手前には中庭を眺める腰掛けがあり、その先は建物に囲まれたトンネルのような通路。
そこを抜けると、再び傍らに光が差し込む庭が現れ、その先にご主人と奥様、2人の幼いお子様たちの4人で暮らす家が立つ。
そして、そのポーチを共有するように、手前にはご主人のご両親の住居が設けられている。
O邸に入るには、門のようなカーポートを抜けてから玄関に至るまでに、さまざまな表情を見せる路地のような道を歩む必要がある。
それはただの通り道ではなく、明確に分けられた「外」の世界と「内」の世界を結ぶ、茶道の世界でいう露地のような空間だ。
「仕事を終えて家に着き、このアプローチを歩いていると落ち着いた気持ちになりますね」とご主人は話す。
玄関ドアを開けると、奥にある緑豊かな庭へと視線が抜けていく。
足元に注目すると、カーポートの石からコンクリート平板、豆砂利洗い出しに変わり、玄関からはタイル床となる。
そしてその床は廊下へと続き、最終的にその先にある広いリビングへと至り、長い直線の道が終わる。
光を抑えた道の終着点である土間リビング。
ダイナミックな勾配天井はヨシベニヤで仕上げられており、その素材感が上質で落ち着いた雰囲気をつくり出している。
ゆったりとした空間のコーナーには、大きなイギリス製のスピーカーが置かれているが、これはご主人の祖父が生前よくクラシックを聴いていたという形見の品。
「このスピーカーを入れる前提で設計をしていただきました。傷んでいたものを修理してもらい、今はこのスピーカーでジャズを聴いています」(ご主人)。
外に目を向ければ、空間と一体化した木製窓越しに、日当たりのいい芝庭が広がっている。
落葉樹や庭石は元々あったものを生かしており、ここにも祖父の思い出が息づいている。
「リビングの床をタイルにしたのは犬を飼いたいと思ったからです。掃除がしやすいですし、冬は床暖房で暖まるので、子どもたちが気持ちよさそうにうたた寝をしていますね」(奥様)。
また、お子様が小さいため、外食よりも、テイクアウトをして家でゆっくり食事をするのがOさん夫婦のお気に入りだ。
「僕は元々、積極的に出掛けるよりも、家で過ごすのが好きなタイプ。ここで暮らして家での時間が充実するようになりました。庭の手入れも趣味になりましたね」とご主人。
住宅街にありながら、外界から離れるように佇むO邸。その穏やかな空間は家族の大切な拠り所となっている。
【DATA】
新発田市 O邸
延床面積/257.91m²(78.04坪)※親世帯の住居を含む
1F 181.96m²(55.06坪) 2F 75.95m²(22.98坪)
家族構成/夫婦+子ども2人+両親
竣工/2017年2月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2020年秋)
コメント