新しい住宅街のコンセプトは「アーバンアウトドア」
新潟市の不動産会社「リビングギャラリー」と三条市のアウトドアメーカー「スノーピーク」。イノベーティブで独自性が高い取り組みを行うこの2つの企業が協働で新しい街づくりを行いました。
「天野エルカール(Amano Elkaar)」と名付けられた住宅街で、新潟市江南区天野の古い団地を再開発して生み出されました。
ここで、2018年4月14日(土)~4月30日(月祝)の土日祝日に、住宅会社10社の個性あふれる住宅10棟を見学できるイベント「天野エルカール『つながる街』住宅展」を開催しています。
初日4月14日(土)のイベントの様子を取材してきましたので、詳しくご紹介します。
この住宅街の特徴は、スノーピークが提唱する「アーバンアウトドア」という考え方を取り入れていること。アーバンアウトドアとは、その名の通り都市(=アーバン)でアウトドアを楽しむことで、わざわざ大掛かりな準備をして野山や海辺へと出掛けることなく、普段の生活の中でアウトドアを楽しむ暮らし方です。
天野エルカールは、一般的な住宅街と比べて緑地スペースが充実しており、その緑地スペースの一角には「住箱-JYUBAKO-」が置かれています。スノーピークと建築家の隈研吾氏が協働で開発した“モバイルハウス”で、「住箱」には、テーブルやイス、焚火台などのアウトドア用品が詰め込まれ、天野エルカールの住人はこの道具を自由に使えるのだそうです。
住人同士や、友人・同僚・親戚を呼んで焚き火を囲みながらパーティーをするという非日常が、日常の中で気軽に楽しめる画期的な住宅街です。
「アウトドアを通じて、人と人が交流し繋がっていく。そんな暮らしが実現できると思います」と天野エルカールのプロジェクトに参画しているスノーピークの小林悠さんは話します。
イベント初日の14日(土)の夜は、人気飲食店SUZUグループのオーナーシェフであり、「食文化プロデューサー」の肩書きを持つ鈴木将さんによる男のアウトドア料理が振る舞われました。
焚き火を囲みながらダッチオーブンで煮込んだお肉を食べる…。この街の楽しい使い方を実演されていました。
独自のガイドラインで、人と人とのつながりをデザイン
アウトドアを住人がそれぞれの住まいの中でも楽しめるように、そして、そこから住人同士の繋がりが自然と生まれるように、天野エルカールでは独自のガイドラインが設けられています。
例えば、家の前を広く空けてカーポートは建てないこと、隣との境界に柵や生け垣を設けないこと、各住宅には専用のシェード(直射日光を遮るためのアウトドア用の布)を取り付ける金具を付けることなど。
開放的な街並みをつくり、誰もが軒先でリラックスした時間を過ごせる空間をつくることで、自ずと住人同士が交流を楽しめる仕組みになっています。街全体の明確なコンセプトがあることで、「人と人との交流」というコミュニティのデザインがなされています。
自宅でアウトドアが楽しめる、10棟のユニークな家
ではここからは「つながる街」住宅展に参加している10社の住宅を見ていきましょう。
①高田建築事務所
天野エルカールの中央に位置し、西側の緑地スペースに面した開放的な土地に立つ家です。この家は、南西側へと開いており、軒下にはゆったりとしたウッドデッキが伸びています。デッキの端は45度角度を変えて、そこにアウトドアテーブルが置かれていますが、半分はデッキ側に掛かり、もう半分は庭側に掛かる設計にしています。すぐ横には外収納も付いているので、アウトドア道具の出し入れもスムーズです。
②大和ハウス工業
リビングに隣接するデッキは天野エルカール最大の広さ。シェードで日陰をつくれば、そこは開放的で快適なアウトドアリビングになります。テントを張れるほどのゆとりもあります。正方形のローテーブルを囲んで夜な夜なデッキでお酒を飲んで過ごす…というのがこの家の夏の日常になりそうですね。
③一世紀住宅
魚沼杉で覆われた佇まいが特徴的な住まい。建物のボリュームが大きく見えますが、実は手前にあるのはカーポート。景観面を考慮し天野エルカールではカーポートを設置しないことを推奨していますが、きれいに魚沼杉で覆うことで条件をクリア。カーポート感を全く感じさせません。そして、このカーポートがあることで、突然の雨に見舞われても慌てずにバーベキューが続行できます。リビングに面した三角形のデッキや、屋上バルコニーもあり、いろいろな場所でアウトドアが楽しめます。
④熊木建築事務所
建物正面に設けられたウッドデッキはL字型につくられており、家族で和やかにテーブルを囲む風景が想像できます。天気のいい日はついついウッドデッキで朝食を食べたくなってしまいそうな居心地のいい空間ですが、デッキのベンチ部分には取り外し可能なクッションが仕込まれています。長時間座っていてもおしりが痛くならないので、長く過ごしてしまいそうですね。サイドの格子の壁は自由に棚板を取り付けることができ、ちょっとした小物置きになります。夜にキャンドルやランタンを置くといっそう素敵な雰囲気になりそうです。
⑤アサヒアレックス
手前に突き出したリビングの前がこの家のアウトドアスペース。通りに対して開放的な場所なので、バーベキューを始めたら自然とご近所さんが集まってきそうです。建物裏手にも庭を設けており、そちらは表側と対照的なプライベートなアウトドアフィールドとなっています。
⑥オレンジスタイル(ダイエープロビス)
シンプルな三角屋根が特徴的な住まいで、2台分の駐車場の隣のアプローチ部分がアウトドアフィールドになっています。こちらでアウトドアを楽しむのもいいですが、建物奥の南側は目の前に広がる広大な田園風景を見渡せるデッキがあります。五泉や三条の山々まで見渡せる絶景。この家に住んだら、ぼーっと外を眺めて過ごす時間が増えそうです。
⑦AC15
こちらの家は、建物正面と裏面の1階・2階に合計4つものバルコニーがあります。玄関前のデッキでは、ご近所さんと日中お茶をしたり、夜にバーベキューを楽しんだり。一方建物裏手に行くと、さらに大きなデッキが広がっており、しっかり両サイドの壁と屋根に守られているので、しとしとと降る雨や、しんしんと積もる雪を眺めながら、季節や天候を問わずに過ごせます。さらにデッキの横には、田園風景を見渡す露天風呂を併設。田園リゾートのような優雅な時間がここでは日常になります。
⑧アンドクリエイト
濃いブルーの壁が目を引く外観ですが、こちらは玄関手前のウッドデッキがアウトドアスペース。ウッドデッキの正面は全開口サッシでリビングと繋がっており、奥の掃き出し窓越しに田園風景が見渡せます。全開口サッシを開くと、このリビングもまたアウトドアのような空間になります。街に開く設計のため、週末だけ自宅リビングでカフェをオープンしてこだわりのコーヒーを提供したり、人を集めてイベントを開催したりといったパブリックスペースのような使い方もできそうですね。
⑨グリーンハウスシミズ
すっきりとしたシンプルなデザインながら、板張りの外壁が柔らかい表情を感じさせるファサード。この家は天野エルカールの住宅展の中で唯一畳リビングとしています。高天井の畳リビングは家具の高さが低く抑えられるため、一層広く感じられます。窓の外にはウッドデッキが伸びており、広大な風景を前にハンモックに揺られて読書をして過ごすという豊かな時間が過ごせそうです。この家に住んだら、あえて自然が豊かな場所へ旅行に出かける必要がなくなるかもしれませんね。
⑩ダイケンアーキテクツ(大建建設)
引き込み式の掃き出し窓を全開にすると外と一体になる土間リビングが現れます。その奥にはダイニングキッチンがあり、その奥の田園へと目線が抜けていきます。開放的で風通しのいい住まいは、プライベートとパブリックの領域を曖昧にした設計。外へと開き、交流を楽しむことを具現化したこの家では、様々な経験ができそうです。土間リビングで事務所やお店を開くという使い方もできるかもしれませんね。また、モダンなテラスでは、汗をかきながら肉を焼くバーベキューよりも、照明を落としてジャズを聴きながらゆっくりとお酒を楽しむアウトドアラウンジという使い方が似合いそうです。
「アーバンアウトドア」という共通テーマを持ちながらも、各社それぞれの個性が現れた住まいが並んでいます。
この住宅展の醍醐味は、アウトドアというテーマで街づくりや家づくりをすると、どんな新しい素敵な体験が得られるかということを大胆かつ緻密に計画している点にあります。
「これからの理想の住まい方ってなんだろう…?」そんな漠然とした疑問に対して、一つの方向性を示してくれているように思います。
ちなみにこの取り組みは全国的に見ても例のないもの。土地を無駄なく区画割りするのではなく、オープンスペースという「遊び」を持たせることによって、さまざまなアクティビティやコミュニケーションを誘発する街づくり。今後天野エルカールがどのような街に育っていくのかが楽しみですね。
住宅展は4月30日まであと計5日間ありますが、楽しいイベントも開催!日に日に暖かくなっていくこの季節、家族の思い出づくりにもなりそうです。
ぜひこの機会に訪れてみてはいかがでしょうか?
4月21日(土)11:00~15:00は、野菜ソムリエの清野朱美さんによる「旬の野菜が主役!彩り豊かなBBQ」
4月22日(日)11:00~15:00は、SUZUKI COFFEEの焙煎士・白井渉さんによる「アウトドアで味わう贅沢な一杯」
4月28日(土)はNSTの人気キャラ「ナシテ君」のフワフワが登場!
4月29日(日)はアルパカちゃんとのふれあい体験
4月30日(月祝)はお山の森の木の学校の木工体験
取材協力/天野エルカール
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