※本記事はハウジングこまちVol.34(2022/6/25発行)の巻頭特集『小さな家がいい。』掲載記事です。
穏やかな時間が流れる、隠れ家のような住まい
海岸に近い砂丘地域に立つN邸。
昔ながらの住宅街に、家々が肩を寄せ合うように集まっている。

Nさんご夫婦と小学生の娘さんの3人で暮らす住まいがあるのは、路地に面した22坪の小さな土地。
「元々ここに立っていた親戚の方の家を借りて住んでいたんです。私は古いものが好きで、築60年以上経つその建物を気に入っていましたが、傷んでいるところも多かったことから、この土地を購入して建て替えをすることにしました」(奥様)。
新しい家の設計は、同じ地域に住み、家族ぐるみで交流している友人の建築士を頼ったという。自然豊かな山間部での暮らしも考えていたご夫婦は、リビングに面した庭、土間、畑に小屋、駐車スペース…と、新居で叶えたい要望を挙げていった。
しかしながら、22坪の土地の建ぺい率は60%。建築面積は最大で13坪程度となる。
建築士は最初に最大限の広さ(間口2.5間×奥行5間)の長方形の平面を描き、そこに水回りなどの生活に必要な最小限の設備や空間と、夫婦の要望を当てはめていった。
最終的にでき上がった平面は、手前側と奥側にそれぞれ10畳の空間を設けたシンプルなもので、基本的には1階・2階・屋上階全て同様の構成になっている。
1階の手前には玄関を兼ねた土間空間、奥には寝室と水回りを集約。

2階の手前はリビング、奥は食堂で、間には坪庭のようなバルコニーが設けられている。
そして、急な階段を上がると3畳程の小さなペントハウスと屋上に至る。
畑や小屋など、狭小地では難しいと思われた要望も諦めることなく実現できたが、その秘密は屋上階にある。
ペントハウスを挟んで2つの屋上があり、北側はくつろぐためのスペースとして設けられた。そこから見るペントハウスはさながら小屋のような佇まい。
中の一角はコーヒーの焙煎スペースになっており、ご主人が焙煎・ブレンド・抽出したコーヒーが、小さな回転窓から差し出される。
「ここでごはんを食べたり、夏はプールを出したり。流しそうめんもやりましたね」と奥様。
もう一方の屋上はご主人の家庭菜園。木製プランターではトウモロコシやナス、ブドウやスイカ、お米など、毎年少量ずつ多品種の野菜や果物、穀物を育てているという。水やりには雨水タンクに貯められた雨水を活用するなど、自然を利用した合理的な仕組みも取り入れている。

古道具がなじむ食堂に、ふわりと漂うコーヒーの香り
手間暇を惜しまない暮らしぶりは、2階の台所にも見て取れる。例えばNさん夫婦は、食器の水切りには竹籠を、炊飯には鉄鍋を使う。コーヒーを淹れるのもハンドドリップだ。
家事の時短を求める人は多いが、日々の営みの中に隠された楽しさに気付こうとする人は少ないかもしれない。しかし、Nさん夫婦の話を聞いていると、実はそんなところにこそ人生の面白さが詰まっているように思えてくる。
シンプルにゾーニングされた小さな家を、お気に入りの家具や道具でしつらえて暮らすNさん家族。
狭小地という制限を感じさせない心地よさがここにある。
【DATA】
新潟市 N邸
延床面積 85.10m²(25.74坪)
1F 39.75m²(12.02坪)
2F 39.96m²(12.09坪)
ペントハウス 5.39m²(1.63坪)
家族構成/夫婦+子ども1人
竣工/2019年3月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2022年4月)
コメント