※本記事はハウジングKomachi Vol.31(2020/12/25発行)の巻頭特集『住まいのニューノーマル』掲載記事です。
ケヤキと向かい合う2階リビング、鳥のさえずりに心癒やされる
たっぷりと葉を茂らせたケヤキが伸びる公園。
Iさんはその隣地を買い、延床面積22坪の小さな家を建てた。
将来自宅で仕事をする可能性があることから、玄関脇には3畳程の仕事スペースを配置。
1階はその他に寝室や水回りがコンパクトにまとめられている。
天井高を抑えた1階から階段を上がっていくと、三方の窓から光が差し込む明るい空間が広がった。
最も大きいダイニングのコーナーの窓越しにはケヤキの木。外から見る以上の迫力で目に飛び込んでくる。
開け放たれた窓から窓へと、秋の乾いた風が通り抜けていく。
風に揺れるケヤキの葉が擦れるさらさらとした音や鳥のさえずりが聞こえてきて、住宅街の中でありながら、自然豊かな高原に居るかのような気分に浸ることができる。
「結婚前に妻と那須の温泉旅館に泊まったんですが、その宿の自然風景が望める部屋に感動して。テレビをつけずに過ごしたくなる空間で、普段の生活でもそのような時間を過ごせたらいいな…と思いました」とIさん。
住宅について調べていく中で、東京のとある住宅作家に興味を持つようになり、同様の感性を感じた上越市の建築士を訪ねたという。
既にブログを読んで考え方に共感していたことから、依頼を決めるのに長い時間は掛からなかった。
その後、家を建てるのに選んだのは住宅街にある80坪の土地。しかしそれは、ちょっとしたクセのある土地だった。
80坪というゆとりある広さだが、その上空には高圧電線が架かっており、半分近くが建物を建築できない地役権付きの土地だった。
そこで、ケヤキを窓辺の風景として取り込めるように、敷地内を斜めに走る地役権の境界線に沿って建物コーナーをカット。敷地条件に合った建築ができ上がった。
Iさんは最初はここで一人暮らし。翌年に結婚し夫婦での生活が始まった。
「ケヤキの木を眺めながら四季の変化を感じて過ごせるのがいいですね。春の新芽が出る時期は、毎日その変化を見るのが楽しみになります」と奥様。
秋になれば大量の落ち葉を掃除するのが恒例だが、それもまたケヤキと共にある暮らしの風情ある営み。
コロナ禍で外出がしにくい時期があったが、「この家で過ごすことが好きなので、特にストレスは感じませんでした」とご主人。
一人になりたい時は、1階の仕事スペースで椅子に腰かけてぼんやりとした時間を過ごすという。
地窓の外には塀に囲まれた坪庭が配されており、図面からは想像できない広がりが得られるのも特徴だ。
「この家に住んでから、食事や食後の時間をゆっくりと過ごすようになりました」(ご主人)。
季節ごとの変化を見せる自然をそばに感じながら伸び伸びと暮らしを愉しみ、自宅内で仕事もできるI邸。
住まいや暮らしの豊かさとは、家の大きさに比例するものではないことを気づかせてくれる。
【DATA】
新潟市 I邸
延床面積/73.40㎡(22.20坪)
1F 40.84㎡(12.35坪) 2F 32.56㎡(9.84坪)
家族構成/夫婦
竣工/2017年9月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2020年秋)
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