前回紹介した白根商店街の空き家再活用事例の記事「白根商店街の空き家がアート空間に」に続き、今回も旧白根市で行われている空き家再生プロジェクトの紹介です。今回取材で訪れたのは、旧白根市東部の臼井地区にある、かつての酒屋「つかせ」さん。
「地区内の空き店舗を使って、人が集まれる場をつくりたい」と考えていた臼井コミュニティ協議会の有志と、前回の記事にも登場した水と土の芸術祭の南区の市民プロジェクト統括プロデューサー・本間智美さんが中心となりプロジェクトはスタートしました。
古さを生かした、最低限のリフォーム
臼井地区では毎年10月に「狸の婿入り行列」というユニークな祭りが開催されます。その祭りにちなんで、狸をテーマにした作品づくりをしていた作家・林僚児さんを招き、作家が滞在しながら創作活動を行う「アーティスト・イン・レジデンス」が計画されました。
「元酒屋の『つかせ』さんは築100年以上の建物で、2年ほど前から空き家になっていたのですが、そこを管理する大家さんの協力があり使わせていただけることになりました」と話すのは、臼井コミュニティ協議会会長の小林誠さん。5月のはじめに、地元の有志でトラック5台分の荷物を処分するところから始まったそうです。そして、限られた予算で空間づくりをするためにとられた方法は、できる限りもともとあるものを生かすことでした。
例えば、土間スペースに置かれたテーブルやベンチは、実は酒屋だったころの陳列棚の板をビールケースに載せただけ。とても簡単なものですが、古い建物の雰囲気によくなじむ家具になっています。また、土間の隅には和菓子に使う木型が並んでいます。「酒屋の前は和菓子屋を営んでいて、家の奥に木型が大量に保管されていたんです。古いものでは『明治43年』と書かれたものもありました」(小林さん)。
市民参加型の作品作りの場を作り出す
作家の林僚児さんがここで行っているのは、訪問者参加型の作品づくり。白根の伝統行事・大凧合戦で使った凧を材料として、張り子などの作品を制作しています。
「第14回目を迎える臼井地域の祭『狸の婿入り行列』がありますが、もっと住民の中での広がりを作りたいという地元の方の想いがありました。そこで、300年の歴史がある祭『白根大凧合戦』と比較的新しい祭『狸の婿入り行列』をコラボレーションさせ、狸を媒介に祭りが変化するという制作手法としました。また、会場の『つかせ』はかつて祝い菓子をつくっていた歴史があり、明治時代から残る祝い菓子の木型が見つかりました。地域住民や来訪者と共に『白根大凧合戦』の破れた和紙と、これらの木型でつくる『祝い張り子ワークショップ』を通じて、みんなで祭りを形作り祝う、参加型のコミュニケーションの場をつくり出しています」と林僚児さん。最終成果は、10月11日(日)の「狸の前夜祭」と、10月12日(月祝)の「狸の婿入り行列」にて披露される予定です。
空き家が新しいコミュニティ空間に
7月にスタートしたこの会場でのイベントは、10月12日(月祝)まで続きます。外からの訪問客だけでなく、地域の人が訪れて茶の間のように過ごすこともあります。聞けば、この地区にはカフェや居酒屋などの人が気軽に集えるスペースがないとのこと。
今は水と土の芸術祭が終わった後の使い方を大家さんや関係者と考え始めている段階なのだそうですが、「駄菓子屋や地域の茶の間、居酒屋のような、人が気軽に集まれるような使い方ができるといいですね」と小林さん。さらに、地区内には建築関係のさまざまな職人がいるそうで、地元の人が力を合わせれば建物改築のハードルはそれほど高くないのだとか。
小さな地域だからこそ意思決定のスピードが速く、そこに住む住人の協力も得られやすい。そんな強さも取材をしながら垣間見ることができました。
かつて酒屋だった「つかせ」。お酒は人と人とのコミュニケーションの潤滑油となるものですが、これからもカタチを変えて地域の潤滑油としての役割を果たしていくのかもしれませんね!
都市部への人口移動と人口減少により、全国各地の地方で問題となっている空き家の増加。その状況を悲観ばかりせずに、住民たちが積極的に楽しみながら使っているのが臼井のプロジェクトです。見方を変えれば、空き家が目立つ町は、新しいチャンスにあふれていると言えるのかもしれません。
取材協力:臼井コミュニティ協議会 小林誠さん、林僚児さん、本間智美さん、
参考HP:新潟市南区観光協会 水と土の芸術祭2015、たぬきのまち臼井・臼井コミュニティ協議会(Facebookページ)
(写真・文: ハウジングこまち編集部 鈴木亮平)
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