2015年11月にオープンした新潟市中央区紫竹山の仏壇店「仏乃蔵」。シンプルなシルエットに大きなガラス窓が印象的な外観は、美容室や雑貨店のような雰囲気を感じさせます。こちらの仏壇店に並ぶのは、伝統的な金仏壇ではなく、洋室やマンションに合うようなコンパクトですっきりとしたデザインの仏壇が中心です。
仏乃蔵の代表・熊倉暢治郎さんは「ライフスタイルが変化し、昔ながらの広い仏間のない住宅が増えています。リビングの一角のちょっとしたスペースや、マンションでも置けるようなシンプルで小さい仏壇のニーズを感じ、ショールームを作りました」と話します。
仏壇職人として起業。仏壇クリーニングで信用を積む
実は熊倉さんは仏壇店の生まれではなく、20代後半で仏壇職人を目指し起業をしています。「電気工事士の仕事をしていた20代の頃、実家の仏壇が職人さんのクリーニングできれいに磨き上げられたことに感動して…。ちょうど、その後の生き方にも迷っていた時期でもあり、その体験がきっかけで仏壇職人を目指すことを決めました」(熊倉さん)。滋賀県彦根の修行先では「仏壇製造が衰退しているこんな時代にやらなくても…」と驚かれたと苦笑いします。
修行を終えた熊倉さんは、仏壇の木地と金箔を手掛ける職人として仏壇店をスタート。ちなみに、仏壇の製造に関わる職人は「工部七職」と言われ、木地、漆、金箔、宮殿、彫刻、金具、蒔絵の全部で7つの職能に分かれており、それぞれの職人さんが「仏壇店」という看板を掲げて窓口となりながら、分業して製造する方法をとっています。
また、お客さんを招く店舗や仏壇の見本を持たない状態で起業をした熊倉さんは、訪問して行う仏壇のクリーニングサービスをスタート。仏壇のクリーニングで顧客からの信用を得ながら、仏壇製造の仕事も増やしていきました。そして、その間にお客さんの住宅の建て替えなどのタイミングで、住まいに合わなくなった仏壇の処分を依頼されるケースが増えていくのを感じたそうです。
気軽に入れる仏壇のショールーム
新しいコンセプトの仏壇店をオープンした理由については、「これまでお客さんを招く店舗を持っていなかったのですが、お店をオープンするなら気軽に入れるカフェのような空間にしたいと思いました。そして、ライフスタイルや住まいが変わっても、仏壇のある生活が大切であることを伝えていきたい」と熊倉さん。
「仏壇を前にして、毎回故人を想い祈らなければ…と誤解されている方もいますが、仏教の中心は故人でもお位牌でもなくご本尊(ほんぞん)です。呼吸を整えご本尊に手を合わせて礼拝することで、今に感謝でき心を落ち着かせることができます。この礼拝のちょっとした時間を取ることで、生活に余裕を生み出せるのではないでしょうか」(熊倉さん)。
また、大きな金仏壇が今の住宅に合わなくなっているのが現実です。そこで、熊倉さんがお店で取り揃えるのが、装飾を抑えたシンプルでコンパクトな仏壇。デザインは違えど、伝統的な仏壇と同様に須弥山(しゅみせん)を模した段が作られており、基本的な構成は同じです。
国産仏壇にこだわり、新たなデザインも生み出す
仏乃蔵で扱っている仏壇は全て品質の高い国産にこだわっています。「新潟だけでなく、秋田や彦根、徳島などの作り手と協働して、それぞれの強みを生かした仏壇製造も行っています」(熊倉さん)。また、仏壇を設置する場所を見たうえで、仏壇のデザインを考え、仏具選びまでを行うなど、トータルで提案を行っています。「伝統的な仏壇だけでなく、新しいデザインを考え、これからのニーズに合った付加価値の高い仏壇を作っていきたい」と熊倉さん。
また、熊倉さんの名刺には「仏壇空間デザイナー」という肩書が入っています。「仏壇を置く空間のデザインやアドバイスも始めています。現在、住宅会社さんとコラボレーションして新築時に仏壇・仏間のことを一緒に考えて頂けるように取り組みを行っています。また、ショールームでさまざまなイベントを行うことで、仏壇をもっと身近に感じてもらえれば」と熊倉さん。
ゼロからの起業で仏壇の世界に入ったからこそ、独自の視点で仏壇とそれを取り巻く環境を見つめて行動ができた熊倉さん。新たなショールームを拠点に、次の挑戦が始まろうとしています。
取材協力:仏乃蔵
住所:新潟市中央区紫竹山3丁目11番27号
電話:025-249-0888
URL:http://hotokedo.com/butsunokura/
(写真・文 ハウジングこまち編集部 鈴木亮平)
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