昔ながらの町屋が連なる、新潟市南区旧白根市の商店街。明治から昭和初期に掛けて建てられた木造の町屋が多く残されています。今では現在の国道8号線が幹線道路となり、その沿線に大型店が連なる白根ですが、かつては商店街を走る通りが国道8号線で、賑わいの中心はこの商店街にありました。
他の町と同様に白根の商店街も空き家が目立っていますが、現在開催中の「水と土の芸術祭2015」のアート会場としてこの商店街の空き家が使われていると聞き、取材に訪れました。
地元の青年会議所とプロデューサーが仕掛けた町おこしイベント
商店街の空き家をアートスペースにしようと仕掛けたのは、地域活性化のために活動を行う白根青年会議所のメンバーと、水と土の芸術祭の南区の市民プロジェクト統括プロデューサー・本間智美さん。
白根青年会議所副理事長の海津悠平さんは、「空き家を使ってアートイベントに参加したいと考えて、白根の伝統的な町屋を探していました。白根は他の町と比べて古い建物の現存率が高いと言われています。5,6軒の候補を出し、その中から条件に合う町屋を使わせて頂けることになりました」と話します。
会場となっているのは、明治時代に建てられたという中伝商店。もともと米店だったこの建物は、10年以上も空き家になっていたと言います。「ただアート会場として利用するだけでなく、その後も町のために使って行きたいというビジョンも共有することで、大家さんの共感が得られたのではないでしょうか」と海津さん。
また、本間さんは、南区の未来にどういう効果を生み出すかというまちづくりの視点から、企画相談やプロジェクトのフォローを担当。南区内のアートプロジェクトと観光を繋ぎ、アートツーリズムとして南区全体を回遊できる仕組み作りにも貢献しています。
青年会議所・商店街・アート作家がコラボレーション
今年7月にオープンしたこちらの会場は、6月に入って設営の準備が始まりました。建設関係の仕事に携わるメンバーが多い白根青年会議所の強みを生かして、多くの家財道具が残る町屋をたった1日で掃除したのだそうです。
その後、アートユニットのKiKiKo.さんが入り、町屋の空間を生かしたインスタレーション作品『息を吹き込む』の制作に取りかかりました。完成したのは、奥行き方向へと長い町屋の空間を見せられるように、建具を取り払い、空間いっぱいに天井から蛍光色の糸を垂らすという作品です。『息を吹き込む』というタイトルには、空き家に風が通り抜けるということと、人が入って動きが出るということ、二つの意味が込められています。
福島・香川・新潟それぞれの土地に住む3人で活動するKiKiKo.のメンバーの一人、小出真吾さんは、「シンプルな作品にすることで、色々な人に制作に参加してもらえるようにしました。また、この場所を体験してもらえるようにお茶会などのイベントも予定しています」と話します。
強い地元の結束で達成したプロジェクト
商店街の空き店舗活用というのは、決して簡単なものではありません。長いこと店を閉じていても、奥の住居部分を住宅として活用しているケースや、人が住んでいなくても家族にとって大切な家財道具が保管されていることもあります。また、老朽化が激しく取り壊すという判断を下されることもあります。そして、実際に空き店舗活用のプロジェクトを住民主体で始めるには、多くの人の協力が必要不可欠となります。
白根は伝統的な大凧合戦という大きなイベントが脈々と続く、コミュニティの結束が強い地域。だからこそ、今回のようなプロジェクトを短期間で実現できたのかもしれません。
「会場を訪れた方から、『商店街のお店の中を初めて見た』『他にもこういう場所で何かやれたら面白いね』と感想をいただくことがあります」と海津さん。
中伝商店の空き店舗活用は、これからの白根の商店街の在り方にも大きな影響を与えるかもしれません。
会期:7月18日(土)~10月12日(月祝) 11:00~17:00
会場:中伝商店(白根商店街内) (新潟市南区白根2908)
(写真・文: ハウジングこまち編集部 鈴木亮平)
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