※本記事はハウジングこまちVol.35(2022/12/25発行)の巻頭特集『趣味を楽しむ家』掲載記事です。
季節の素材を採り入れたお菓子を作る、優しい時間
3年前に新築し、夫婦と息子さんの3人で暮らしてきたAさん家族。春に大学に進学した息子さんが一人暮らしを始めたため、今は夫婦と愛犬がこの家で暮らしている。
奥様の楽しみは季節の食材を使った料理やお菓子を作ることだという。「きっかけはパンでした。ある日ふとおいしいパンが食べたくなったんですが、家に居るのが好きでなるべく外に出たくなくて。それで自分で作ることにしたんです」と奥様。はじめはホームベーカリーを使っていたが、やがて手ごねで作るようになったという。
「レシピを検索してできそうなものから入っていき、徐々に難しいものに挑戦するようになりました」(奥様)。新居に住んで、友人や会社の同僚を招く機会が増えたことも、料理やお菓子作りのモチベーションに繋がっているのだそう。
この日は出回り始めたリンゴを使って、アップルパイの仕込みをされていた。レモンと一緒に煮込まれたリンゴが、フライパンの上でおいしそうに湯気を上げている。
トレイに並べられたパイシートにリンゴの甘煮をのせ、さらに上からパイシートをかけ、卵液を塗りオーブンへ。数十分後、甘い香りが室内に漂い、パイがきつね色に焼き上がった。その上にクリームとブルーベリーソースをかけて完成。
コーヒーと一緒に木のトレイに載せられたサクサクのアップルパイを口に含んだ瞬間、冬が近づいていることを実感した。そのアップルパイの中には「季節感」という抽象的な概念が閉じ込められているようだった。
広すぎず整えやすい、延床面積21坪の平屋
Aさん夫婦が家づくりを計画し始めたのは、息子さんが中学3年の頃。子育て期間が終わりに近づいていたこともあり、自ずと求められる家はコンパクトになった。
延床面積21坪の平屋は、小さな箱と大きな箱を連結させたユニークな平面で、小さな箱には寝室や水回りなどが固められ、大きな箱は家族や友人が集うLDKになっている。
両側から通り抜けられる動線上にキッチンがあり、作業の合間に顔を上げれば、芝庭とシマトネリコの木を眺められる。ここに立つだけで清々しい気持ちになりそうだ。
床面積も収納スペースも大きい家ではないのに、どこを見ても美しく整えられている。出掛ける前に掃除をすることがルーティーンになっている奥様は「広すぎずちょうどいい」という。
室内には丁寧に選ばれた家具や植物、味わいのある雑貨がしつらえられ、それらがリラックスした空気をつくり出す。家に居ることが好きだから、より心地よく過ごせるように整えるようになり、それによって家で過ごすことが一層好きになる。そんな好循環が生まれているようだ。ご主人も「窓や下駄箱、換気扇などの掃除をまめにするようになりました」と話す。
奥様の楽しみは、料理やお菓子作りに留まらず、器づくりや編み物へと広がっているという。手編みのブランケットを膝にかけ、手作りのカップに注がれたネルドリップのコーヒーを飲む。
庭に目を向ければ、晩秋の弱い日射しが、地面に木漏れ日を落としているのが見える。ぬるめの露天風呂に浸かっているような心地いい時間がゆっくりと流れていく。
【DATA】
三条市 A邸
家族構成/夫婦+子ども1人
延床面積 71.63㎡(21.62坪)
1F 71.63㎡(21.62坪)
ロフト 16.14㎡(4.87坪)
竣工/2019年12月
構造/木造軸組工法
(取材時期:2022年11月)
『趣味を楽しむ家』関連記事
コメント